介護報酬の請求業務において、返戻(へんれい)や保留は避けて通れない問題です。毎月の請求作業で頭を抱えている事業所は多く、特に経験の浅い請求担当者にとっては大きな負担となっています。本記事では、返戻・保留の基本的な仕組みから、よくある原因・対処法・予防策まで現場目線で解説します。
返戻・保留とは何か
返戻(へんれい)とは
返戻とは、国民健康保険団体連合会(国保連)に提出した介護報酬の請求が審査を通過できず差し戻されることです。返戻された請求は支払いが行われず、翌月以降に修正して再請求する必要があります。返戻通知書には返戻理由コードが記載されており、事業所はその理由を確認して対処します。
保留とは
保留とは、請求内容に疑義があるとして国保連が審査を一時停止した状態です。返戻と異なり差し戻しにはなりませんが、支払いも行われません。保留には「事業所の指定状況の確認中」「利用者の被保険者資格の確認中」などのケースがあります。解除されれば支払いに進みますが、長期間保留が続く場合は国保連や市区町村への問い合わせが必要です。
返戻になる主な原因
①利用者に関するエラー
- 被保険者番号の誤り・不一致:保険証の番号と請求番号が一致しない
- 氏名・生年月日の不一致:漢字の誤り・旧字体の違いなど
- 要介護度の相違:認定有効期間外のサービスを請求した
- 認定有効期間外のサービス:認定切れ・区分変更の手続き遅延
- 給付制限中の請求:保険料滞納による給付制限期間中の請求
②事業所に関するエラー
- 事業所番号の誤り:指定番号の桁数・番号自体の誤入力
- 指定有効期間外の請求:指定更新を忘れていた・指定取消後の請求
- 体制加算の届出未了:加算の届出をせずに加算を算定した
- 人員基準違反期間の請求:管理者不在・資格者不足の期間の請求
③請求内容・算定要件のエラー
- 限度額超過:区分支給限度基準額を超えた請求
- 算定要件を満たさない加算の請求:サービス提供体制強化加算・処遇改善加算など
- 日数・回数の誤り:実績と請求内容の不一致
- 他事業所との重複請求:同一日・同一時間帯に複数事業所が請求
- 入院期間中のサービス請求:入院中は原則として在宅サービスを請求不可
返戻通知書の見方
国保連から届く返戻通知書には以下の情報が記載されています。
- 被保険者番号・氏名:返戻対象の利用者
- サービス種別・提供年月:どの月のどのサービスか
- 返戻理由コード:返戻の原因を示すコード(例:E53=要介護認定なし等)
- 返戻点数(金額):差し戻された請求の金額
返戻理由コードは国保連の「介護給付費請求に係るエラーコード一覧」で確認できます。コードを正確に読み解くことが、迅速な再請求への第一歩です。
返戻後の対処手順
- 返戻通知書の確認:理由コードと対象利用者・サービス月を特定
- 原因の調査:介護ソフトの請求データ・利用者の保険証・認定通知書を照合
- 関係機関への確認:必要に応じて市区町村・国保連へ問い合わせ
- 請求データの修正:介護ソフトで該当データを修正・再作成
- 翌月請求に組み込んで再請求:返戻分は翌月10日までの請求期限に間に合わせる
返戻分の再請求は最大2年間(時効)有効です。焦らず正確に修正して再請求しましょう。
保留の主な原因と対処法
- 被保険者の資格確認中:市区町村で認定申請中・転入手続き中のケース。市区町村への確認が必要
- 事業所の指定状況確認中:指定更新の審査中など。都道府県・市区町村に問い合わせ
- 給付管理との突合結果待ち:ケアマネから給付管理票が提出されていない場合。ケアマネへの連絡が必要
給付管理との突合(付き合わせ)
介護保険の請求は、居宅サービスの場合、各事業所の請求データと居宅介護支援事業所(ケアマネ)が提出する給付管理票が国保連で突合されます。この突合で不一致があると保留・返戻になります。
主なケース:
- ケアマネが給付管理票の提出を忘れた・遅れた
- ケアマネの給付管理票と事業所の実績が一致しない(単位数・日数の相違)
- ケアマネが変わったタイミングでの混乱
月次の請求前にケアマネと給付管理票の内容を事前確認する習慣をつけることで、突合エラーの多くは防止できます。
返戻・保留を減らすための予防策
- 毎月の請求前チェックリストを作成:被保険者番号・有効期間・限度額・加算要件を一覧で確認
- 認定更新のカレンダー管理:認定有効期間をケアマネと共有し、切れ目なく更新
- 加算届出の管理:体制加算・処遇改善加算の届出期限を事業所カレンダーに登録
- 入院情報の速やかな共有:利用者の入院を把握したら即日請求データを調整
- 介護ソフトのマスタ管理:事業所番号・利用者情報を最新の状態に保つ
- ケアマネとの月次確認ルーティン:請求締め前にケアマネと実績・単位数を照合
2024年度改正で注意すべき請求ポイント
- 処遇改善加算の一本化:3種類の加算が統合されたため、算定区分・届出内容の確認が必須
- LIFE(科学的介護情報システム)提出の義務化拡大:未提出の場合は加算の減算対象となるため、提出状況を毎月確認
- 口腔衛生管理加算の要件変更:歯科衛生士との連携記録が必要
- 褥瘡マネジメント加算の変更:DESIGN-R評価の記録と提出が要件
関連記事:ケアプランの書き方【第1表〜第3表の記入例・文例付き】ケアマネ必見
まとめ
返戻・保留は事業所の資金繰りに直接影響する重大な問題です。発生してから慌てて対処するのではなく、月次のチェック体制を整えることが最大の予防策です。また、ケアマネとの連携強化・介護ソフトのマスタ管理・加算届出の徹底が、長期的な返戻ゼロへの近道です。毎月の請求業務を「確認・照合・提出」の3ステップで標準化しましょう。



コメント